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『も う、 い い 、か い ………』
ある日、
庭のすみっこから、とてもちいさな声がしました。
『も う 、い い 、か い ………?』
「まぁだだよ!」
そのちいさな声に、そばを通りかかった風がこたえました。
「僕らはまだ冷たい風を吹かせているんだ。君たちはまだまだ眠っていなさいね」
風が行ってしまうと、庭は静かになりました。
*****
数日後、
『も う、 い い、 か い ………』
次に気付いたのは庭に根をおろす沈丁花でした。
『も う い い か い………?』
「あらあら。
今日は小春日和だから間違えたのかい?
でもね、まだですよ。私のあしもとはまだ冷たくて白くて凍ってますからね」
沈丁花の返事を聞いて、庭はまた静かになりました。
それから しばらくのあいだ、庭に声が響くことはありませんでした。
*****
『も う……い い……か い ?』
あれから、
幾日かが過ぎたある日。
『も う い い か い?』
庭のすみっこだけでなく、あちこちから聴こえるちいさな声に、
「そろそろかな~」と風が。
「雪はすっかり溶けたわね」と沈丁花が。
そして何やら美しく響く声が返事をしました。
『もう いい かい?』
『もう、いい、よ!!』
温かな水気を含んだ土の上へ、ようやくその芽を伸ばした若葉たちが目を開けると、そこには………
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