カラオケボックス

1/1
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

カラオケボックス

 会社の飲み会の二次会でカラオケボックスに行った。  店員に案内されて部屋に向かうと、そこにはすでに先客がいた。  だだっ広い部屋なのに、すでにおひとり様が陣取っている。なのに店員は気にするふうもなく俺達を残して去って行った。  え? 先客がいるのにいいのかよ。部屋を間違えてるんじゃないのか? それとも相手が一人だから相部屋にしろとでも?  正直なところ、俺はあまり赤の他人との相席とかは好きじゃないし、俺以外にも嫌がる人間は少なからずいる筈だ。  そう思い、周りに訴えようとしたのだが、みんなはまるで気にしていないらしく、さっさと席についてしまった。  これでいいのかよと思っている俺を尻目に、みんな好き勝手に歌を歌い出す。そこまではまだよかったが、注文した料理を勝手に先客が食い始めた段階で、さすがに許容ができなくなった。  とはいえ、気の弱い俺は直接その人に文句が言えず、隣の同僚をつついて、先客が勝手にあれこれ食べていることを訴えた。しかし同僚の反応は…。 「は? 他の客? どこに?」  一次会で酒を飲んでいるとはいえ、正気を失うような量ではない。なのに同僚には先客が見えていないようだった。…いや、俺以外にの全員に見えていないというべきか。  何も言えなくなる俺の視線の先で、誰にも見えていない先客が、今度は勝手に選曲をし始める。  さすがに、誰も選んでいない曲が流れ出し、さらには歌声が響いたりしたら、みんなもこの異常事態に気づくだろうか。  とにもかくにも気弱な俺は、何も言えないまま、誰にも見えない先客の選んだ曲が流れ出すのを待つしかできない。 カラオケボックス…完
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!