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OK?と実に愉快そうな笑みを浮かべる悪神に、拓真は頷いた。
「よしよし。それで、だ。お前にとって最も聞きたい事に答えてやろう」
そう、悪神はまだ答えていない。何故自分なんだと。特に目を引くような才能もなかった。ただ生きるために必死で、出来る事は何でもやった。
その結果が、これだ。
「お前は生きることに忠実だ。けれどただの自己チュー野郎じゃない。人並みに、人を愛せる人間だ。なぁ、弥城拓真。お前は、満たされていたか?」
その問いに、はい、と答える事が出来なかった。
勉強を人一倍、何倍も頑張って有名な大学に受かった時も。バイトをしている時も。友人と数少ない休日を過ごした時も。学校での時間、家での時間。学校で、家で、バイト先でも、自分は━━━
「満たされて、無かった」
常にどこか渇いていた。飢えていた。
ここではない、どこか遠い場所に自分は行きたい。
まるでそこを知っているかのように。“知らないのに知っている”。知識も無い、されど心は知っている。友人にも1度話した事があるが馬鹿にされた。
空想の物語でもあるまいし、現実にあるわけ無い。いつしか渇いたままに慣れていた。これが現実なんだと、そう思って……………
「俺がお前を選んだ理由に深い訳は無い。ただ、元の世界に帰してやろうってだけだ」
「…………?? 元の世界?」
「そうだ。お前は異世界で生まれ、異世界で死んだ存在だ。死んだお前は、無数の世界の内、あの地球のある世界へと転生した。所謂、輪廻転生だな。本来なら前世の記憶はリセットされ、真っ白な状態で生まれ変わるんだが………。どういう訳か、お前にはホンの僅かに残されていたみたいだ。前世の記憶が、な」
理解が追い付かない。いきなり自分は異世界で死んだ存在だと言われて混乱している。
しかしここで表に出すほど取り乱さないのは、心のどこかで納得してしまっている自分が居ることだった。
「恐らく、一種の回帰願望ってやつだろう。本来真っ白の状態で生まれてくる筈が、前世の色が混ざってしまった。結果お前は、生まれ変わった世界で馴染む事が出来ず、前世に引かれてしまっていた。俺がお前を選んだのはそう言う事だ」
頭はプチパニックになっているのに、逆に心は落ち着いていた。
「元の………世界………」
どんな世界なんだろうか。そこに行けば、自分は満たされるんだろうか……?
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