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雨が降っていた………暦の上では6月。
ここ、【王都ヴァルナ】の天候は悪い。雷が轟き。雨は豪雨となり、強風が吹きすさぶ。
こんな天気で外を出歩くような物好きは居ないだろう。
しかし、こんな天気でも大通りをゆっくりと歩きながら、その男は居た。
暫く歩くと、とある路地裏に入って行った。
まるで迷路のように要り組む路地裏は、豪華絢爛な王都の裏の顔。社会的地位の低い者。犯罪に手を染めたもの。孤児達。ある理由から表の世界には居られなくなった者。この路地裏に来る者達は様々だが、大半がその日その日を生きるのに精一杯な弱者である。
裏の世界であるこの路地裏では、誰が死のうが関係無い。人が数人死んだところでそれは日常茶飯事。誘拐強盗強姦殺人etc.etc.
おおよそ、人が犯す罪と言う罪。穢れと言う穢れ。負の連鎖が溜まりに溜まっている場所。それがここ、王都裏世界。
普通の感性を持つ人間が一度入り込めば、二度と表の世界には戻れないだろう。
そんな世界を男は、まるでいつもの道を歩くかの如く、みるみる内に路地裏の奥へ奥へ入って行った。
男が立ち止まったのは暗く、日の光が出ていても決して届きそうに無い場所に建っている。とある建物。
一見、汚れや古びた様子もなく。新築同然だった。
しかし、その建物が纏う雰囲気はここの住人でも寄せ付けない。
陰険で邪悪。一度関われば、どこまでも堕ちていく。身も心も全て………。
男は何かに引き寄せられるかのようにその建物へと入って行った。
建物に入ると、正面には受付と書かれた机があり、そこで若い女性が書類仕事をしていた。奥には上へと続く階段があった。
男は先ず受付へと進んだ。
受け付けに居たのは、十代後半の女性。金髪で肌は死人のように青く。まるで生気を感じられなかった。無表情で書類を見ていたが、男が受付の前まで来ると顔を上げて男を見る。
「ようこそいらっしゃいました。本日はどのような件で?」
「依頼を頼みたい」
「かしこまりました。では奥の階段から二階へと御上がりください。そこで社長がお待ちです。」
それを聞くと男は階段へと進んだ。
男を見送った受付の女性は、また書類仕事へと戻った。
受付の女性の案内通り二階へと上がると、すぐ右手に扉があった。扉の前で止まると
「お入りください」
と若い男の声が聞こえた。
男は扉を開け、中へと入る。
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