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場所は変わって、マーミット家上空には一人の少年が浮かんでいた。
彼は依頼を邪魔されぬよう、部外者が入って来れぬように、復讐対象が逃げ出さぬように、もしも目撃されぬように、【空間隔絶】と【認識遮断】の魔法を使っていた。
どちらも【空間系】の魔法と【幻術系】の魔法であり、普通の人間がどちらか一方を使うことはあれど、両方を同時に使うなど至難の技。
それを少年は涼しい顔でやってのけ、しかも上空にいると言うことは何かの魔法によるものだろう。
少年は眼下に広がる地獄絵図を見ても顔色一つ変えず、その後もずっと魔法の維持に務めていた。
マーミット家内部。
美しかった家の内部は見るも無惨な状態へと変わっていた。壁は壊され、逃げ道を無くすように階段を壊され、従者は皆息絶えていた。
その行為は全て憎悪によるもの。憎悪が彼を動かし、殺意があらゆる殺傷行為を可能とする。
今も向かってくる従者達を殺しながら真っ直ぐ、真に復讐すべき者達が居る部屋へと突き進む依頼人。
そんな彼の背後に佇み、笑顔を絶やさず依頼人を見つめる奈落は依頼人に対して
「お客様。これでは私が出る幕がございません。何より、お客様が本当に復讐したい相手は別でございましょう?ならば、このような者達に無駄な体力と魔力を割く必要はありません。私に任せてください」
奈落は依頼人に本の少しの忠告と、本音である不満を混ぜ込み進言した。
「無駄ではない。この者達も、あの腐った奴等と同じよ。あのようなおぞましい惨劇を前にして笑みを浮かべていたのだからな……!!」
依頼人の憎悪の火が大きく燃え上がる。
依頼人の男の過去に何があったのか、マーミット家がこの男に何をしたのか………
その全てを聞いている奈落は狂気の笑みを浮かべ
「えぇ、そうですそうですとも。許せないでしょう。許せるはずがありませんとも。この家の者達を皆殺しにし、地獄に叩き落としたい。そうでしょう?素敵なお客様」
「あぁ……そうだ。そうだとも。俺はコイツらを絶対に許さない。殺す、殺す殺す!殺してやる!!」
依頼人の耳元で囁いた奈落の言葉は、まるで最高級の麻薬のように依頼人の脳へと染み渡り、男の憎悪を大きく大きく燃え上がらせ、その精神を蝕み狂気へと堕としていく…………
「さぁさぁ、今宵はお客様だけの復讐劇。存分にご堪能あれ」
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