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訊く気がなくても自然に耳に入ってくる噂話に、教室へと続く長い廊下を歩きながら、堪らずため息を洩らした。
本当にこの手の噂には欠かさない男だと、真人のことを認識するのは何ヶ月ぶりだろうか。
ひさしぶりに沸き上がったスキャンダルは、周囲にとって格好のネタだ。
やっとの思いで辿り着いた教室で、入ろうとした瞬間、眼の前のドアが突然勢いよく開き、中から現れた人物を見て、おもわず一歩後ずさった。
「智紘!」
やっぱりきたか。
普段の穏やかな顔はどこへやら、凄い形相で立ちはだかる祐一郎を見て、おもわず小さく息を吐いた。
「おはよう、祐一郎」
「なに悠長な挨拶してんだよ!おまえなー」
「あ、智紘、おはよー」
祐一郎の後ろからひょこりと顔を覗かせる悟に、智紘はにこりと微笑んだ。
「悟、おはよう。昨日はごちそうさま」
「あはは、昨日もいってたじゃん。ちゃんと帰れた?やっぱ泊まってけばよかったのにー」
「大丈夫だよ。悟のウチには今度ちゃんとお泊りセット持って泊まりにいくから」
「わぁ!ホント?約束ね!」
昨日はあのあと、一緒にごはん食べようという悟の言葉に従って、悟の家にお邪魔した。
真人の兄の昌市はバイトだったらしく、結局二人きりでピザを食べて、そのあと少しゲームをして、 泊まっていけという悟の誘いをなんとか断って、家に帰ったのが十時半。
その間、真人の家の明かりは、ずっと消えたままだった。
うれしそうに笑う悟と約束の指切りをしていると、祐一郎の長い腕が首に絡んだ。
「智紘、ちょっとこい」
「ちょ、苦しいって」
「あー!祐一郎、指切りの邪魔するなよ!」
「あとで気が済むまでしていいから。ほら、呼んでるぞ」
「えー!あーもう、いまいくよー!」
クラスメイトの呼ぶ声に、悟は教室の中に引き返していった。
そして自分の身体はそのまま廊下の端に引き摺られていく。
「祐一郎、苦しいんだけど」
首を絞められた状態ではさすがに話もできない。
そう訴えると、祐一郎は小さく息を吐いて、智紘の身体を解放した。
「・・・・で?」
「ん?」
なに?と首を傾げると、祐一郎は、眉間に皺を寄せた。
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