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「智紘、今日ウチ寄ってけよ」
HR終了のベルと共に、早くも帰り支度を終えた真人が隣の席で口を開いた。
「え?」
カバンに教科書をしまいながらおもわず手を止めて首を傾げると、真人は苦笑を洩らした。
「春子さんいないんだろ?」
「そうだけど、あれ?俺、真人にいったっけ?」
たしかに、春子はいつものように父親の達也の元へ旅立ってしまった。
いない間は康平のところへいきなさい、という春子をなんとか宥めて空港へと送り届けたのは昨日のことだ。
そのことは、まだ誰にもいってないはずなのに。
不思議そうに首を傾げる自分を見て、真人は小さく笑った。
「祐一郎情報な」
「え?」
「毎年十月の中頃になると、達也さんのところいくって訊いたけど?」
それを訊いて、おもわず眼を瞬かせた。
たしかに十月のこの時期になると、春子は達也のところへいってしまう。
なぜなら、それは達也の誕生日があるからで・・・・。
早くも教室から飛び出して部活にいってしまった祐一郎を思い浮かべて、小さく肩を竦めた。
ここまできたら、親友というより、立派な保護者だ。
「俺、一人でも大丈夫なんだけどな・・・・」
なんかもう、ここまで心配されると、複雑だ。
ぼそりと呟いた言葉に、真人は小さく吹き出した。
「まあ、おまえの食生活については俺もだいたいわかってきたし、祐一郎の気持ちも理解できるな」
「・・・・そんなに酷い?」
「酷いっていうか、無頓着すぎだな」
あっけらかんといわれて、頭を捻った。
自分でもわかっているだけに、なんともいい返せないけれど。
「だから、こういうときは俺を使えよ?おまえに頼られるのは気持ちいい」
「頼ってるっていうか、甘えてるだけのような気がするんだけど・・・・」
対等どころか、これではただの甘ったれだ。
困ったように眉を寄せた自分の髪を、真人は笑いながらくしゃくしゃと撫でた。
「いーんだよ、それで」
いわれた言葉と、その仕草。
なんだかくすぐったくて苦笑を洩らすと、真人は眼を細めて笑った。
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