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母性本能をくすぐる。
むかし、一晩だけつきあった女性にいわれたことがあった。
『トモヒロって母性本能をくすぐるのよね。なんか守ってあげたくなっちゃう。 たぶん、誰かに守られないと生きていけないほど弱い人間じゃないと思うんだけど、それでもなんか守りたくなるのよね』
それがアナタの魅力なのかしら・・・・。
そう呟いて、彼女は頬に触れるだけのキスをくれた。
たぶん、彼女の言葉は、いまの真人にも当てはまるのかもしれない。
守られるだけが、自分じゃない。
誰かを守って、そして、自分の足で立てるだけの精神力がほしい。
それでも、真人は、自分を守ろうと手を伸ばす。
それは決して甘やかそうとしてではなく、必要なときにこそ手を差し伸べる、そんなやさしさだ。
だから自分は、その手を掴むことで、自らの足を使うことができるのかもしれない。
守って、守られて、そんな風に、お互いを必要としたい。
「智紘、いくぞ」
カバンを小脇に抱えて歩き出す真人の後ろ姿を見て、おもわず苦笑を洩らした。
やっぱり、守られている比率のほうが大きいような気がするのは気のせいかな?
それでも、この空間が心地よいから。
いつまでも自分は甘えてしまう。
自分の理想など、脆いものだ。
「あ、真人!帰るのか?」
教室を出たところで、悟が隣の教室から飛び出してくる。
「あー?おまえ、まだいたのかよ」
「悪いかよ!あ!智紘も一緒に帰るの?」
「うん、今日、真人ンちにお邪魔しようと思って」
「ホント!?ちょっと待って!俺も一緒に帰る!」
バタバタと足音を響かせながら、教室に入っていく悟を笑いながら見ていると、相変わらずの真人は煩わしそうに眉を寄せた。
「相変わらず煩ェな」
「いいじゃない、賑やかで」
「アホ、あーゆーのは賑やかっていわねえんだよ」
ただの騒音だ、と呟きながら、真人はさっさと足を進める。
「あ!真人、置いてくなよ!」
やっぱりバタバタと駆け寄ってくる賑やかな足音を訊きながら、真人はさらに眉を顰めて、智紘は愉快気に笑った。
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