58人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねー、真人、今日の夕飯なに?」
「あー?決めてねえよ」
「俺ね、オムライス食べたい」
「そいや、サンマがあったな」
「決めてないっていったじゃーん!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ悟を無視して、真人はさっさと靴を履き替え、玄関の外へと出てしまう。
「あー!もう、置いてくなってば!」
あとを追うように走っていく悟に続いて、下校中の生徒で賑わう玄関をすり抜けた。
そろそろ十一月だというのに、今年は少しあたたかい。
それでも、吹き抜ける風はもう冬の風だ。
「祐一郎いるかな?」
少し背伸びをして、悟はグラウンドの隣にあるテニスコートに眼をやった。
「いや、今日はグラウンド整備だっていってたから、屋内だと思うよ」
「そうなんだー、残念」
今日は体育館でバレーボールの日、とうれしそうにいっていたテニス部の祐一郎を思い出し、小さく苦笑を洩らした。
悟は歩きながら、空を見上げて、深い息を吐いた。
まだ白くはないけれど、それでも、確実に冬は近づいている。
少しずつ、少しずつ、雪の足音が近づいてくる。
「今日さ、昼休みサッカーやったんだけど、十一月に入ったらできなくなるかな?」
つまんないよね、と不安そうに呟く悟に、笑いながら、何気なく空を見上げた。
空はまだまだ秋の色。
それでも確実に見え隠れする冬の色。
「そうだね、寒くなるよ?きっと」
「んー、でも、まだまだいけると思うんだよね。みんなは来月になったらバスケに切り替えるっていうんだけど」
「そりゃね、風邪引くといけないし」
「そうかなぁ?まだ大丈夫だと思うけど」
「ま、おまえに風邪は無縁だわな」
「なんだと!?俺だって風邪くらい引くぞ!」
「おまえが風邪引くのは夏だろ、夏。ほら、夏風邪はナントカが引くって」
「煩い煩い!バカ真人!」
真人はにやりと笑いながら、悟の攻撃をやんわりとかわす。
いつもどおりの光景を笑いながら眺めていると、真人が悟の頭を押さえつけながら、身を屈めた。
最初のコメントを投稿しよう!