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「で、サンマ食えるか?」
「え?ああ、好き」
「ならいい」
にかりと笑った真人に笑みを返し、そっと髪をかきあげた。
「ちぇー、俺の意見は無視かよー」
「おまえに意見なんてはじめっから訊いてねえよ」
「たまにはソンチョーしろよ!」
「マヒト!」
悟の大声にも負けじと、校門の影から響いた声に、全員が振り向いた瞬間。
眼の前で、鮮やかな赤毛が揺れた。
「・・・・シオリ?」
体当たりの如く、真人に勢いよく飛びかかってきた細い身体。
突然のことで、その身体を受け止めた真人が、珍しくも驚いたように眼を見開いた。
「マヒト!やっと会えた!」
真人の首に腕を回し身体に抱きつく赤毛の女に、数秒フリーズしていた真人もさすがにやんわりとその身体を引き離した。
「・・・・なにしてんだ?おまえ」
眉を寄せる真人に、女はおくすることなく、にこりと笑った。
「マヒトに会いにきたのよ」
「・・・・キョウか?」
真人の言葉に、女は小さく肩を竦めた。
「キョウを責めないでね。あたしが無理矢理訊き出したんだから。キョウに訊いたのはマヒトの制服だけよ。 キョウだってマヒトの学校まではわかんなかったみたいだし、自力で探したのよ」
一ヶ月かかっちゃった、と笑う女を見て、真人は不機嫌そうな顔で髪をかきあげた。
普段も真人は、感情はあまり表には出さないし、無表情なことも多い。
でも、それでも・・・・あまり見たことがない表情だと思った。
一瞬だけ見えた冷たい眼は、たぶん、自分たちから離れた、べつの空間で見せていた表情なのだろうか。
自分には決して見せない、凍りつくような冷たい視線。
自分の知らないその眼を見ることができる女に、意味もなく、嫉妬した。
「ねえ、マヒト。今日つきあってほしいんだけど」
「・・・・なんのために」
「一緒に、いたいのよ」
真人の眼を見て、はっきりと言い放つ女に、真人は僅かに眉を寄せた。
冷たい眼は、彼女を射抜くかのように突き刺さっているのに、それを気にも留めないのは、 普段、この女は、真人のこんな眼しか知らないからなのだろう。
それを当たり前だと思う空間で、真人は生活していたのだろうか。
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