1.獣に変身

11/55
前へ
/446ページ
次へ
「哲ちゃん!」 「よお」 すっかりスーツ姿が板についた哲(テツ)こと織志維哲(オリシイサト)は、姫良の長年の友人であり、姫良の夫、紘斗の仕事上のパートナー兼友人だ。 紘斗は貴刀グループの後継者として期待されていて、つまり、哲と貴刀家は親しい間柄だ。 哲とはじめて会ったのは、姫良と紘斗がここで内々の結婚式を挙げた七年前のことだ。 顔立ちはいいのにどことなく強面で、けれど軽く顎をしゃくるしぐさはざっくばらんで、気取らない挨拶はまったく変わらない。 「わざわざすまないね」 智也が哲に呼びかける。 「いいえ、ちょうど仕事帰りです。こんな時間だ、姫良には依頼した責任があります。おれに頼むのがいちばん安全だって知ってますから」 「そこは私も信用してるよ。愛車をぶっ壊したくはないだろうからね」 智也が揶揄すると、哲は可笑しそうに笑い声を立てた。
/446ページ

最初のコメントを投稿しよう!

825人が本棚に入れています
本棚に追加