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一夜限りにすべきだと思ったその関係は、二度三度と続くうちに背徳感を薄めていった。
男の、低く甘い声や、ごつごつとした大きな手や、優しい口調も、去り際にそっと微笑むその顔さえ、だんだんと特別なものになっていく。
薄まる背徳感と反比例して、濃くなる気持ちが何なのか、気付かないほど鈍感ではない。
だが、それを認めて割り切れるほどには、女は大人になりきれない。
まだ本気じゃないと、自分にそう言い聞かせては、女は必死に距離を保とうとする。
男はそんな女の気持ちなどお見通しだとでも言うかのように、一貫して態度を変えない。
初めて会った時からずっと、男は決して指輪を外さないし、何度身体を重ねても、愛してるとは囁かない。
それに気付いていながらも嵌っていく女は、今日もまた、本気じゃないと繰り返す。
男は女の匂いを全て払って帰っていくのに、女の部屋には男の匂いがいつまでも残っている。
そのことが腹立たしいのに、女はつい、この匂いが消えなければいいのにと思ってしまう。
もし、許されるのならば、朝まであなたの腕の中にいたい。
それが叶わないのならせめて、目覚めた時、隣にあなたがいてほしい。
口に出せない願いは胸の奥で溢れて、涙となって頬を濡らし、女の身体を冷やしていく。
冬の朝に、冷えた身体はきっとまた、男の体温を探してしまうのだろう。
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