01.光る海

2/10
前へ
/204ページ
次へ
俺の目の前には夜の海が広がっている。 沖縄海洋高専二年生である、俺、日向海斗は約五十名の仲間達と一緒に、実習船「第七陽光丸」に乗り込んでいた。 白い船体を持つ第七陽光丸は全長六十五メートル・総トン数約千トンほどあり、船体中央部に三階建て校舎のようなキャビンがある。 キャビン最上階には操縦などを司るブリッジがあり俺達は交代で操船任務につくが、そこで受けた実習は「怒られた」以外の思い出はない。 ブリッジの屋根では周囲を監視する全周型スキャニングソナーが回っている。 キャビンには食堂、寝室、風呂、トイレ、遊戯室などがあり、港への上陸がない限りは、この狭い範囲で生活しなくてはいけない。 甲板はキャビンの前後にあり、前部には荷物を上げ降ろす大型クレーン、後部には大型のサッカーゴールのような、海底地形探査装置マルチナロービーム用のアームがある。 これは沖縄海洋高専が持っている実習船なのだ。 俺達は四十日の実習航海を終え、明日、沖縄県糸満港へ帰港するところだった。 とても凪いだ真っ暗な海を第七陽光丸は、約十二ノットで航行する。 こういった速度が肌で分かるようになったのは、四十日間の渡る『鬼』のような実習の成果だ。 沖縄海洋高専は海の環境保全、資源研究などに特化した高専なのだ。 広い後部甲板には俺しかいない。 実習航海が始まったばかりの頃は、自由時間になると海を背景に記念撮影をする生徒がケータイを片手にたくさん集まっていた。だが、怒涛の研修生活に全員疲れ切って、運行を担当する者以外は就寝するようになっていた。 夜の海を眺めたことがあるだろうか?  俺が改めて感じるのは「海中は人を拒絶する空間だ」ということだった。 人は地球上全てを支配した気でいるが、地球表面積の七割と言われる海に人が入るには、アクアラングなど大仰な装備を背負わなくてはならない。
/204ページ

最初のコメントを投稿しよう!

184人が本棚に入れています
本棚に追加