01.光る海

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 例え、巨大なボンベに呼吸ガスを圧縮して海中へ挑んだとしても、海中での活動時間は一時間を越えることは難しい。  深く潜れば潜る程、人は使用する呼吸ガスを濃くせねばならず、ガスの使用量は増え、結果的に水中へ留まる時間は減ってしまう。 更には呼吸ガスに含まれる窒素が、高い水圧によって体に大量に溶け込むことによって起きる「減圧症」を引き起こす可能性がある。 この程度の装備を持っているからと言って、面積約3億6000万平方キロメートル、最深部で一万九百十一メートルに及ぶ、体積約十四億立方キロメートルの海を全て支配していると本当に言えるだろうか? 海が人を拒絶していることは、夜の海を見つめることで一番よく分かる。 ほとんどの者は真っ暗な海から、得体の知れない恐怖を感じるだろう。 昼間はエメラルドグリーンに輝いていた沖縄のビーチでも、夜になってしまうと海へ足を入れる気にはならないはずだ。 人は生まれながらにして海を恐れている……。 俺達は船という大気側のみに存在が許される乗り物を使い、魚を始めとする海洋資源を海中から収奪し、陸からは下水や産業廃棄物を投棄しているだけだ。 陸上に住むマウンテンゴリラの生息数ならかなり正確に把握しているが、海となるとシーラカンスの数でさえ把握することが出来ない。世界では金の採掘に苦労しているが、海にもあると言われる金鉱脈については調査さえ遅々として進まない。 そう、我々は海について宇宙以上に 何も知らないのだ。 不思議なことだが、こういった想いは海のことを知れば知るほど強くなる。 スクリューによって船体後部に発生した白い航跡が、漆黒の海に吸い込まれていくのを見ていた俺は、言いようのない恐怖を感じてブルッと体を震わせた。 そんな俺の目に海面を走る二本の光る航跡が飛び込んでくる。 今まで見たこともない閃光、自然の海には存在しない赤みがかった色。 海中を猛烈な勢いで迫ってきた二本の線は、相互にリンクしているかのように、同じタイミングで右へ旋回する。 シュルルルルルルルルルルルル ルルルルルルルルル……。
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