また夜の月に、俺は栞を挟む

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 安アパートが並ぶ住宅街の片隅、商店街の端っこ。  ぼんやり霞む光、古い二階建ての家。  その一階、俺は、がららら、と引き戸を開ける。 「――あー……あったけ」  冬の冷たさと入った瞬間の温かさにすくんだ首が元に戻った。  本棚の間をすり抜けて、いつもの定位置――ソファーにバッグを置いた俺はマフラーと手袋を外す。  ソファーの前にはレトロな黒く丸い石油ストーブが火を灯していて――この店内を温めている。  ここは古書店、俺は客。  店の人は――脚立の上に座っていた。  俺はストーブの前で暖をとっていた猫の頭をつついて鳴かせる。 「なぁーん」  黒猫の婆ちゃんは、にゃーん、とは言わない美人さん。 俺が婆ちゃんに声を出してもらったわけは――。
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