また夜の月に、俺は栞を挟む

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「――あれ? 俺、また……?」 「一回も気づいた事ねぇですよ」  俺は婆ちゃんを抱いてソファーに腰かけた。  柔らかくもなく、固くもないソファーは座り心地が良い。  店の人――月代(ツキシロ)さん。  ぎし、ぎし、と今にも壊れそうな木の脚立を降りるツキシロさんは背が高い。 「いらっしゃい星野(ホシノ)君」 「こんばんわ。婆ちゃんに言ってもらわないと気づかないの、相変わらずっすね」 「そうだねぇ……」  ツキシロさんは集中――夢中になってしまうと人の声では覚めないのだ。 唯一気づくのは婆ちゃんの声だけ。  白シャツに、黒いズボン。  冬だというのに、裸足につっかけ。  長い前髪は目を隠していて、黒縁の眼鏡がやや見える。
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