霧の中

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 猫というのはね、どこかで人間には分からないものを察知する力があるのよ。もしかしたら、私たちには見えない何かを視ているのかもしれない。 そんなことを語っていたアナタは、その時、何を想っていたのだろう。  小さい頃に、祖母が猫を飼っていたことがある。 チロと名付けられたそいつは頭も背中も石炭のように黒くて、腹の部分だけ雪みたいな白さで、すべすべした毛並みをしていたひどく神秘的な猫だった。 いつだって治らない鼻炎を持っていたその飼い猫は、慢性的に鼻先をぐずぐずさせながら、低い声でニャー、と鳴いて家のコタツの中に寝転がっていた。 そんな幼い自分の遠い記憶。追憶を、寒くなった今の時期にたまにしてしまう。
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