霧の中

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 慢心、していたのかもしれない。 高校二年でレギュラーに選ばれたこと。140キロ以上の球だって打てていたこと。監督から目をかけられていたこと。 準備運動も、ストレッチもちゃんとしていたはずだった。嘘じゃない。本当に、脚には気を付けていたはずだったんだ。 みんなを見ているのが辛くなって、部活は休部していた。秋に靭帯を傷めて、それを引きずったままの冬の初めだった。  その日、オレの住む町では珍しいことに雪が降った。 白くて、儚くて、触れれば消えてしまいそうなほど頼りなく見えた初雪だった。 心は、虚ろなままだった。生きている実感が湧かなかった。それくらいに、野球というスポーツに全てを捧げてしまったから、尚更。  自分というもの自体を、壊してしまいたくなっていた。 メチャクチャに破壊して、この手のひらも、皮膚も、内臓も、脳みそも、全てをグチャグチャに解体して、真っ赤にして、そのまま消えてしまいたいような喪失感だった。  学校が終わると、家に閉じこもっていた。カッコ悪いことなんか分かっていたけど、ずっと昔のゲームをやっていた。終わったらまたひっくり返して、始めからやった。やって、 やって、気が付けば朝が来て、また学校に行った。  勉強なんて分からなかった。オレはこの先も野球さえあればいいと思っていたから、先生に今やっている授業が分からないと告白することすら恥ずかしかった。  全てにおいてが支離滅裂で、情けない日々を送っていたある日の晩だった。 ゲームのやり過ぎで腫れぼったい目を擦ったオレの前に、小さな幻覚のようなものが姿を現したのは。
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