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窓の外から、猫の声のようなものが聴こえたんだ。それは昔祖母が飼っていて死んでしまった飼い猫の声に凄く似ていて、オレの心臓が時を止めたような思いになった。
冬の晩に、聴こえてくるその物音に、堪えきれずにオレはジャンバーを着てスニーカーを履いて貸家の外に出た。寒さが身に染みたけれど、視線は猫の姿を探していた。
……見つけた。
今でも忘れない、死んだあとに何度も思い描いた通りの黒白の見た目をした猫が、ふくふくとした毛皮を輝かせて玄関先に座っていた。
「チロ……、お前、なんでこんなところに」
オレはたまらずに唇を震わせて、その猫に近づこうとした。
これは幻覚だろうか、それとも幽霊だろうか。会いたくて、会いたくてしょうがなかった祖母の飼い猫だったその存在へと、指を伸ばす。
すると、目を細めた猫は付いてこい、というように尻尾をぴんと立てて先導するように道を歩いていった。
「……え……」
誘われるように、オレも足を一歩踏み出す。
夜道には霧が発生しており、よく知っているはずの辺りはまるで異界のようになっていた。
どこに連れていこうというのだろう。
ふらふらと彷徨いながらも猫の後を歩き出したオレが導かれた先は、どうやら近所の神社のようだった。
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