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余り遠出をするつもりがなかったので、寒さが体にくる。
そろそろ触らせてくれてもいいだろう、そう文句を言おうとしながらも神社に踏み込んだその瞬間、オレの足下が何かを踏み抜いたように脆く崩れた。
「うわ!」
どうしてこんな場所に落とし穴が!
咄嗟に頭を抱えた自分の身体が、上空から叩きつけられるように落下していく。しばらくして、木々の上から落ちてきたオレの存在に、誰かが透明な悲鳴を上げたのが聴こえた。
「……す、すんません」
目と目が合ったモンペを着た女性が、瞠目して凍り付く。神社の賽銭箱に何かをお祈りしていたようで、白い手のひらが小さく震えていた。
「な、たは……」
気のせいか、彼女はどこかオレの父親に似た容貌をしていた。
とても可愛いはずなのに、どうしてか懐かしい雰囲気の女性で、お腹は少し膨れていた。
「あなた!」
そう叫んだ女性は、泥のついた頬に涙を零した。
縋りつくように、抱きしめられる。かき抱かれたオレがぎょっとしているのを分かってか分からずか、「う、ああああぁ……」と号泣し始める。
小柄なその人の泣く姿に訳の分からないオレはオロオロしてしまったけれど、その人が落ち着くまでずっとその場に立っているしかなかった。
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