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「……こうしてまたあなたと会えるとは思わなかった」
霧の合間に、和服姿の女性は驚いたようにこちらを見て、はにかんだように笑った。
「オレは……」
「夫のあなたが死んでもまた、会いに来てくれると思わなかった。息子も、もう随分大きく育ったわ」
息を呑んで、オレは彼女を見る。
「オレは……どうして死んだんだっけ」
途方に暮れた言葉を告げると、女性はその眼差しに悲しさを宿して、浅くため息をついた。
「覚えてないの?」
「……うん」
「あなたはね、戦争で徴兵されて……特攻隊に配属されて海で死んだと聞かされたわ。酷い話しよね、私のお腹には子どもがいたのに……それっきり帰って来なかったのよ」
「…………そんな」
……そんなことって、あるのか。
脳裏に、昔聞かされた祖父の死因が頭をよぎった。
オレの会ったこともない父方の爺さんは、軍に特攻させられてフィリピンの海で亡くなっていたはずだ。
科学的にはあり得ないはずなのに、目の前の女性の正体が分かりかけて、オレはどう振る舞っていいのか分からなくなった。
「……オレに、会いたかったの?」
「当たり前です……っ」
そこで胸を詰まらせたように、女性はすすり泣きを始めた。
困ったオレが、言葉を洩らす。
「……泣かないでよ」
「そんなこと……言われても……っ」
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