2人が本棚に入れています
本棚に追加
「アンタらが『練習場所をかけて試合をして欲しい』って言うから、わざわざやってるのにこの様?」
威圧的なその態度に、打席に立った男子が肩を縮めて委縮する。
「そんなに練習したきゃ、トスバッティングやらせてあげるわよ。ほーら」
そう言って下から山なりのボールを投げた。
完全に相手を馬鹿にした投球である。
「くっ」
男子の打者もこれには、屈辱を感じたのだろう。力のこもったフルスイングでボールをはじき返した。
勢いよく打ち出されたボールは、内野の頭上を越えホームランの基準として備え付けられたネットに当たる。超えはしなかったが、かなりの長打である。
丘の上で見ていた栄治には余裕の三塁打。いや、相手が女子と言うことも考慮すれば、ランニングホームランまであるかもしれない、そう感じられた。
ところがである。女子チームのライトの選手が素早い動きで、あっという間にネットから跳ね返ったボールをすくい上げ、三塁に向かって鋭い返球をした。
ボールは70メートル近い距離をノーバウンドで飛翔、三塁手のミッドに音を立てて吸い込まれる。
「うわあ」
三塁に向かう道半ばで、相手のミッドにボールが収まっていることを知った男子は、急いで二塁に戻ろうとする。
しかし、すぐに挟み撃ちにあい、あえなくアウトとなった。
(なっ!)
驚愕の声を上げる栄治。
栄治は改めてスコアボードを見る。
そして、自分が大きな勘違いをしていたことが分かった。0対5、男子の方だったのである。零点に抑えられ、5点も取られているのは。
最初のコメントを投稿しよう!