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その後も、女子のチームは圧倒的なパフォーマンスを見せた。
ピッチャーはMAX144kmのストレートで男子側のバッターを圧倒。
打っては力強いライナーが何本も内野の間を切り裂き、仕上げは四番のホームラン。
気がつけば八回終わって9対0。栄治の目から見ても、決して男子が極端にヘタクソなわけではなかった。女子チーム。極彩学園正規野球部の面々が強すぎるのである。
「やっぱり三軍でも極彩学園ね。うちらより一枚上手だわ」
「あれで、レギュラーとれないんだもんなあ」
予想通りと言った感じの紅本と遥川。
一方、栄治は信じられないと言ったような様子である。
(……どういうことや。本当にあのこら女子なんか? オレの時代の甲子園球児なんか比べ物にならんような動きしとるぞ)
その時、紅本のスマートフォンから着信音が鳴った。
「あれ、青葉からだ」
紅本は通話が聞こえないように、少し離れた場所まで行って電話に出た。
ちょうど紅本に変な独り言をしていると思われる心配もなくなったため、遥川は唖然としている栄治に話しかけることにした。
「栄治さんもさっき言ったでしょ。時代が変われば野球も変わるって。そう、変わったんですよ、野球は女子のスポーツになったんです」
そもそも全ての発端は、50年前。
それまで女性の体の中に眠っていた、ある筋肉が発見されたことが原因だった。
『超瞬発筋』と呼ばれるものである。
通常の瞬発筋よりも遥かに高い瞬発力を生み出す筋肉である。
特に震撼したのはスポーツ界だ。男女別で住み分けをするという文化の無かった野球界においては、まさしく天地がひっくり返るような出来事であった。
次々に現れる圧倒的な身体能力を持つ女性選手に、男性選手たちは駆逐されていった。気がつけば10年もしないうちに野球という競技は、女性の競技となってしまったのである。
「『超瞬発筋』を利用した場合、男女の身体能力の差は圧倒的です。アメリカや台湾では男子野球がそれなりに盛んですが、身体能力の面だけ見ればそこのトップ選手たちと、日本の女子高校野球のレベルが同じくらいだと言われているくらいです。それが、この時代の野球なんですよ栄治さん」
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