小さな友達

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ヤツは四年前のある日、ふらっとうちにやってきた。そしてあまりにも大きな声で 「ご飯をくれ」 と泣きわめくものだから、近所の目を考えて僕は家にあげるほかなかった。僕もアパート暮らしの貧乏学生だったから冷蔵庫の中はほとんど空っぽだったが、辛うじて昨日の晩御飯の鮭の塩焼きが五センチほど残っていた。五センチだけ残すなんて、と思うかもしれないが、ご飯にのせてお湯をかけるだけで簡単鮭茶漬けになるのだから侮れない。 僕は貴重な食料をヤツに差し出した。 「こんなのしかないけど、ないよりましだろ」  そう言ってお皿を差し出すと、余程お腹を空かせていたのか何の警戒心もなく鮭を口に運んだ。見知らぬ人から食料をもらって警戒心がないというのも現代社会では珍しい。大体の人は小さいころから『知らない人からものをもらってはいけません』とかいったしつけをされているものだと思う。僕はそんなことを思いながらヤツが鮭を食べ終わるのを待った。  綺麗に鮭を食べ終わり、気を利かして出した水も飲んだヤツはご馳走様も言わず、 「ここに住まわせてくれ」  と言った。僕は悩んだ。悩みに悩んだ。僕は小さいころからこう教わっている。『知らない人にあまり深く関わることはよしなさい』と。でもこの場合は特例なのではないか。ヤツをこのまま放り出せば、どこかで野垂れ死んでしまうかもしれない。不本意とはいえ、一度差し出した手を引っ込めるというのはなんとも気が引けてしまった。
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