深酒の代償、締めておいくら?

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「僕、安藤さんに職場で素っ気なくされるの、本当は結構傷ついているんですよね」 「そ、そんなつもりじゃ」 「仕返しで皆にこのこと言っ――」 「待って! な、何でも言うこと聞くから! そうだ! 今後は書類に不備があってもその場で指摘をせずにこっそり返すわ!」 「……分かってないな」  そう呟くと彼は不愉快そうに眉をひそめた。  し、しまった! 余計に彼の気分を害してしまったようだ。 「むしろわざと――」 「え?」 「いいえ。……そうだな」  神崎君は少し笑い、不意に携帯を取り出したかと思うと、何やら操作してシャッター音を響かせた。 「え、何撮って……」 「保険です」 「へ? あ、きゃあ!?」  今更ながら自分の姿に気付いて真っ赤になると、慌てて身を抱きしめる。  彼はそんな私を見てスーツジャケットを脱ぐと、肩にふわりと掛けてくれた。彼の爽やかな香りで身を包まれ、なおさら羞恥心が湧き起こる。  それでも必死にジャケットをかき合わせていると、彼は膝を折って視線を合わせてきた。 「安藤さん、さっき何でも言うことを聞くと言いましたよね」 「え、い、いえ?」  神崎君はにっこり笑うと、彼の携帯画面をこちらに向けた。私のあられもない姿が写っている。 「い、言いましたね、紛れもなく!」 「ええ、でしたよね。……じゃあ、これから」  おそらく仕事場での報復だろうが、一体何を指示されるのだろうか。  私はこくんと息を呑む。 「もっと僕と仲良くして下さいませんか」 「な、仲良く?」 「ええ、仲良く」  思いの外、軽い代償に肩の力が抜ける。 「そ、それだけでいいの?」 「ええ。『仲良く』だけでいいですよ? ――『俺』とね」  どこか色気づいた挑発的な笑みを浮かべ、半強制的に迫ってくる神崎君に気付いて息が詰まった。 「返事は?」  そんな風に問いかけてくるも、初めから選択肢など用意されていない質問に私は引きつった笑みを浮かべる。 「も、もちろんでございますデス……」  その答えに彼は美しく蠱惑的な笑みを浮かべてみせた。  ……どうやら神様が不信心な私に派遣したのは堕天使の方だったようだ。 「嬉しいな。では、公私ともにこれからよろしくお願いしますね」 「こ、公私……? は、はは……は」  訂正。  この深酒の代償、締めまして。  …………計り知れない。
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