深酒の代償、締めておいくら?

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 私は書類を手に後輩のデスクへと近寄り、それを置く。 「赤で修正した所、直してね」  そう言って自分のデスクへと戻ると、それを見計らったかのように男性社員が近付いて来た。 「安藤さん、僕の書類も見て頂けますか」  綺麗な笑みを浮かべて書類を差し出してくるのは私よりも二歳年下の神崎賢人君である。端整な顔立ちで元々女性社員に人気はあるが、優秀で上司にも覚えが良く、けれど驕る事もない朗らかな性格から男性にも人気のある社員だ。  そんな彼も完璧ではないようで、いつもいくつかのミスがある。  私は眼鏡のフレームに指を置いてズレを直すと書類に素早く目を通し、赤ペンで修正をしていく。 「昨夜は流星群があったそうですけど、ご覧になりました?」  椅子に座ってチェックする私に対して、長身を屈めて世間話をする彼からは爽やかで清潔そうな石鹸の香りが漂ってくる。 「見てないわ」  軽く返事をして、その香りを追い払うように神経を書類に集中させた。そして全てに目を通すと彼の胸に突っ返す。 「はい。数字が違う。やり直し」  そう言うと彼は少し悔しそうに眉をひそめた。  きつい物言いで傷つけてしまったかしら。でも彼の距離はいちいち近いんだもの。 「すみません」 「……よろしくね」  申し訳なく思うが、彼との接近をこれ以上望まない私は自分のデスクへと向き直った。  そんな私に彼は小さくため息を吐くと立ち去る。すると彼の元に数人の女性が寄って行くのが目の端に映った。 「神崎君、可哀想。あの人、キツイよね」 「あ、いや。むしろ仕事が速くて尊敬するよ」 「彼女、速読術マスターしていて、そろばんも段位持っていて計算速いそうよ」 「そうそう。仕事は迅速かつ正確無比で無表情な彼女に付いたあだ名が安藤ロイド!」  小声で話しているつもりかもしれないけど、聞こえているから。と言うか、彼に優しい言葉の一つでもかけたら、ダサイ年上女が年下のイイ男に媚び売って格好悪いって噂するくせに。  一つため息を吐き、夜の飲み会の為に頑張ろうと仕事に集中した。  ☆☆☆  アラーム音で意識が浮上する。夜、解除するのを忘れていたらしい。……ん、あれ? 昨夜って、あれ?  嫌な予感と共にどこかで嗅いだことがある香りがすぐ横から漂う。  も、もしやこの香りは。恐る恐る目を開けると、そこには……。
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