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ぎゃーっ! やっぱり嘔吐物がぁぁぁ。
反射的に、ベッドの上で身を後ろに引く。
記憶はあまり定かではないが、どうやら昨夜、会社の飲み会で飲み過ぎたらしい。良い睡眠を取りたくて低反発枕とシーツを買ったばかりだったのに目覚めは最悪だ。とてもじゃないが二度寝する気にもなれない。……仕方がない。起きる事にしよう。
二日酔いのせいか、この現状のせいか、若干の頭痛を抱えながらベッドから身体を起こすとキャミソール姿の自分に気付いた。何とか服だけは脱いだものの、ルームウェアに着替えるまでには至らなかったらしい。
「ここまで酔いつぶれた事はなかったのにな」
現状にげんなりしながらもペーパーを取って口を拭うと、まずシーツを片付けようと思い、ベッドから足を下ろして立ち上がる。
と、その時。
パキッ。
小気味よい音が響いた。
激しく、ええ、それはもう、激しく嫌な予感を抱きながら足元に視線を落とす。
視力が低下した目で見るぼんやりした視界はその形を捉える事はできなかったが、足裏から伝わってくるプラスチックと細い金属の感触に否が応にもマイ眼鏡だと予測された。
甚大な被害ではないことを願いつつ、座り込んで取り上げてみる。すると、決して軽くはない体重で押しつぶされた眼鏡は片方のツルが素人目から見ても修復不可能なくらいあらぬ方向に折れ曲がっていた。
あぁぁ、目が、私の目がぁぁぁ。
名作アニメの悪役のごとく心の中で叫んだ。
「ああ、ホント嫌……」
ただいまの損害額、低反発枕12,960円、インド製シーツ7,880円、眼鏡49,800円、締めて70,640円である。
「ふっ。瞬時に計算してしまうとは、もはや職業病ね」
……などとのんきに呟いている場合じゃない。視界が悪い現状で下手に動くと被害が拡大するだけだろう。洗面台に替えの眼鏡があるから、まずはそれを掛けてからだ。ここは慎重に行こう、慎重に。
ひとまずキャミソールの胸元に眼鏡の無事な方のフレームを引っかけると、四つん這いになって緩やかに部屋を歩く。すると、破れたストッキングや汚れのついたスカートやらブラウスやらの散乱具合が見えた。
私は一体どんな帰り方をしたというのだろうか……。
さらに扉の方へと進んで行くと、この寝室にあってはならぬものに遭遇する事になる。
「こ、これはぁぁぁっ!」
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