32人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
震える両手で持ち上げ、愕然とする。
それは工事現場に置いてある動物キャラ(パンダさん)の単管バリケードだった。
も、持って帰って来ちゃったぁぁぁ!
パンダグッズコレクターの私は以前、お値段はどれくらいだろうと検索した事があるから覚えている。意外とお手頃な税込み3,780円だ。
しかし問題はそこじゃない。無断で持ってきたという事は窃盗の罪となる。確か、窃盗罪は十年以下の懲役又は50万円以下の罰金のはず。
さらに悪いことにこれを見て昨夜の記憶が断片的に蘇ってきた。
確か私は帰り道、工事現場でこれを見かけて可愛い、欲しいなどと連呼した上、ガードマンロボットにまで絡み酒をした覚えが! しかも胸に抱えて持って帰ろうとした記憶が!
冷や汗が額からつと流れる。
初犯であれば数万円程度の窃盗だと実刑判決になることはないと言うが、以前、工事現場グッズの販売サイトでパンダのバリケードを検索した時に一緒に見たことがある。ガードマンロボットのお値段は税込み486,000円だった。
この寝室にこそ、その姿が見当たらないが、もし目の前の扉を開け、廊下にガードマンロボットを連れ帰っていた場合、いかほどの罪となるのか……。
この扉の向こうで待っているものはいつもと変わらぬ平々凡々な日常か、はたまた犯罪者猫まっしぐらの絶望の日々の始まりか。
私は大きく深呼吸すると立ち上がった。そして胸元で見よう見まねの十字を切る。
神様、仏様!
普段祈ったことも、信じたこともないけどお願いです! 何とぞ私にご慈悲を! 南無さーんっ!
宗教戦争でも起こしかねないハイブリッド宗教な祈りを込めると、扉を勢いよく開けた。
――が。
願い虚しく、普段は何もないはずの廊下の壁際に人形が鎮座している姿が目に飛び込んで来た。
ノォォォーっ! やっぱり神も仏もいなかったぁぁぁ。
「犯罪者決定。決定だよ、私。オワった……」
私はがんがんと鋭い痛みが響く頭を抱えた。
最初のコメントを投稿しよう!