深酒の代償、締めておいくら?

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 反省だけは人一倍している。ええ、していますとも。  何とか土下座謝罪で許してもらえないだろうか。そ、そうだ。盗んだ物を返し、泥酔の上での行為だと説明して真摯に謝罪したら示談交渉を受けてくれるかもしれない。  いや、待ってよ。示談金の相場は被害額に20万円を足した金額だった気がする。と言うことは、バリケードが3,780円、ガードマンロボットが486,000円、示談金が200,000円。賠償金、締めて689,780円? ……さらに損害額70,640円を足して、深酒の代償は総額760,420円とな!? 『酒は飲んでも呑まれるな』  ええ、そう。その通りですね。そして人生が終わるくらいなら払って然るべきものかもしれない。それでも先人の教訓をありがたいお言葉として頂戴するにはあまりにも高すぎる勉強代だ。  一気に身体の力が抜けて、再び四つん這いの体勢へと崩れ落ちる。 「いやぁぁ。夢なら覚めて……」 「むしろこんな良い夢なら覚めないでほしいな」 「何でよ。悪夢よぉぉ」  ん? 今、私の言葉に誰かが応えた? もしかしてガードマンロボットが? ……いや、まさか。幻聴が聞こえてくるとは酔いがまだ醒めていないようだ。 「僕は役得ですよ。あなたのこんな姿が見られるなんて。朝から大胆な格好ですよね。もしかして僕を誘っているんですか?」  確かに絡み酒をした記憶はあるし、いくら恋人いないからって、何が悲しくてガードマンロボットを誘わねばならんのだ。……って、いやいや。  今度こそ床から手を離して身体を起こすと膝立ちして声のした方に視線を向ける。くすくす笑うその声には聞き覚えがあったからだ。  まさかと思いつつ、私はぼんやり滲む視界に目を細めた。 「おはようございます、安藤さん」 「その声、神崎君?」 「ええ、正解です」 「嘘。ここにいるわけが……」 「では、眼鏡を掛けてご覧になってはいかがですか?」  彼の言葉に胸元の眼鏡に気付いて、片方のツルだけで何とか掛ける。  クリアな視界になった先にいたのは、腕を組み、朝も早よから爽やかな笑みを浮かべて、いや、むしろ面白そうにこちらを見下ろす後輩の神崎君だった。
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