猫3

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「何なんだお前!」 「胸囲はあるけど胸筋が柔い。この胸じゃあ安眠はでけへんな」 振りかぶられたバットを無視し、スルリとその3の胸元に滑り込み、ペチペチと胸板を叩く。ついでとばかりに脇腹から鳩尾にかけて左手を這わせるが、腹筋にもまた満足はいかなかった。 ひぎゃぁ! と情けなく声を上げるその3にクルリと背を向け、未だに手放せていなかったバットを腕の内側から叩き落とし、 「そおぃ」 気の抜ける掛け声と共に背負い投げを決めた。源造直伝のコレが綺麗に決まった事が地味に嬉しい。 そんな猫の笑顔に、何を勘違いしたのか揃って尻をついたままの不良共は顔を青褪めさせる。 「ん? お兄さんらもう終いなん? お兄さんらから声掛けてくれとーに、スタミナ切れ? ……どーせなら『アニキ』が来るまで遊んだってぇや」 猫の言葉に、冗談じゃないと抜かしていたらしい腰を上げ、不良共は足早に駆け去って、否、猫の勝利のため『敗走した』と言うべきか。 ふぅと一息ついて猫は路地裏の隅に投げた学生鞄を拾う。 高校の制服を見て簡単にカツアゲ出来るだろうと思われたのだろうが、とんだ誤算だ。猫は、中学卒業後母の仕事を手伝う傍喧嘩に明け暮れていたのだから。そんじょそこらの同世代よりは強いであろう。 ただし、体格に然程恵まれていない猫に一対多数や、持久戦は向かない。よって先程の『アニキ』というのもただのハッタリだった。
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