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しばらく黙って俺の話を聞いていた青年が、口許に当てていた手を離し口を開く。
「つまりお前は死んでいない、生きた人間にも関わらず、この店へ辿り着いた……そうだな?」
「え?ああ、はい。……生きた人間にも関わらずって、一体どういう……」
俺が尋ねると、青年は先程までとは打って変わって、機嫌の悪そうな表情で答えた。
答えたと言うより、落とした。爆弾を。
「いいか人間。ここは本来、死者と物の怪にしか入ることができない、現し世と黄泉の狭間だ。人が死んでから死者の世界へ向かうための通り道なんだ。だから、よほどの理由がない限り、普通の人間が入り込むなんて早々あることじゃない」
死者。物の怪。
現し世。黄泉。
「……なんの冗談ですか、それは」
「冗談じゃない」
きっと睨まれ、俺は思わず背筋を伸ばしてしまう。
女の子はいまいち状況がつかめていないのか首をかしげている。俺も同じだけど。
「……おい、お前。人間は何を使って移動する?お前をここに連れてきたのは何だ?」
「連れてきたもの?……移動手段はいろいろありますけど、俺はさっきも言った通り歩いてきました」
「じゃあ、お前をここに連れてきたのは、その足なんだな」
そういうことになるんだろうか。言われてみればそんな気もする。何せ、ここに来るまでの間はまさにその通りだった。意識だけになった俺が、体によって無理矢理この場所へ連れていかれるような感じだ。
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