第一話 晩年の寄り道

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家族は、居ない。 友達らしい友達も居なかった。 数年前に父さんを亡くすまで、一人なんてきっと堪えられないと思っていたのに、今ではすっかり一人に慣れてしまっている。 (……良くないよなあ、こういうの) 生き物は、その環境に適応すべく進化を遂げてきた。 人の心も同じだというのなら、一体俺は何なんだろう。人との関わりを、ぬくもりを求めなくなったら、人は一体どうなってしまうのだろう。 そこまで考えて、ぐうと鳴った腹の虫がそれらを一蹴した。くだらない、と。 ぶっちゃけ食べ物さえあれば人は生きていける。逆も然り、食べなければ生きていけない。 「飯、食いにいくか」 呟いて、先日銀行から引き出してきた紙幣の一枚を財布に突っ込む。 毎月必要以上に送られてくる、大昔に縁を切った母親……いや、女性からの仕送りだ。 多分、まだ未成年の俺をひとりにしている罪悪感もあっての事だろう。 それ以上に、この金額が、「私は金銭面を除き貴方の面倒を見る事はしません」と物語っている。と、俺は思っている。 そんな嫌な事ばかり考えてはいられないし、俺にとってあの女の人はもう他人だ。善意の第三者が自分の生活費を賄ってくれているのだと思うと、感謝してもしきれない。 (今日はどこの食堂にしようか。いい加減コンビニもファミレスも飽きたしな) 先週の日曜に買った靴をおろす。新品の靴はなんだか心地がいい。 (……あ。夜に、新しい靴を履いちゃいけないんだっけか) 大昔に父さんに言われた言葉を思い出す。 けれど明確な理由は知らないし、もう脱ぐのがめんどくさい。 俺は靴を履きかえる事無く、夕飯を求めて夜の街へ繰り出した。
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