第一話 晩年の寄り道

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駅前の喫茶はビミョウ。市役所近くの食堂は臨時休業。 この坂を下った先はいつものファミレス。右に曲がればコンビニ。 住宅街を抜ければ高級懐石。食える訳ない、そんなもん。 このおいしそうな匂いは焼肉屋。一人で入るのには勇気がいる。 右手には牛丼チェーン。嫌いだった元同級生がバイトをしている。 「……どこも駄目じゃん……」 俺、わがまますぎかよ……なんて思いつつ、ふと、水の流れる音に気が付いて、左を向く。 ……川だ。今日は少し流れが速い。 川に架かる橋を渡ってまっすぐ進むと、九尾山という山の入り口がある。 九尾山は本当に何もない山で、何も無いくせにまるで頂上に何かあるとでも言いたげな石階段が不気味な心霊スポットだ。霊の目撃情報もある。真偽は定かじゃないが。 (……なんだろう) 気付くと、足が山の方を向いていた。そのまま橋を渡り、足が勝手に山の方へと歩いていく。 どうして自分はあの山に向かっているのだろう。何も無いはずの、あの山に。 「さみい……なんで俺は山道歩いてんだよ、こんな寒い日に。馬鹿じゃないのか」 とは言いつつも、新品のスニーカーを履いた足は止まる気配も無く石階段を上っていく。 俺の意思とは関係ない。でも、俺の意思は好きにさせておけと言っている。 (辿り着いた先に超絶旨いレストランが……って、んな訳ないよなあ) 今はとにかく温まりたい。何か食べたい。建物に入りたい。 なのに、それでも足は石階段を進んでいく。
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