第二話 赤い落とし物

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昨日はとにかく忙しかった。 朝御飯を食べてすぐに門の護符の貼り替え作業に入ったものの、肝心の新しい護符がなかなか出来上がらない。結局、店を守れるだけの力が宿るまで六十八枚書いた。しっかりと覚えている。 もちろん父さんはそれを生業にしていたので一発で成功したらしいが。事前にちらっとその話を聞いていた俺はそりゃもうへこんだ。美月ちゃんはそれでも褒めてくれたが、それが余計に惨めだった。なんか生きてるだけで褒めてもらえるような気さえした。 それから昼食を食べ、一人だけお客さんが来て、一日を終えた。 実際には掃除とか雑用もやったけど、それら全てが霞むほど貼り替えがとにかく大変だった。同時に、己の無力さを自覚させられた。これをなんとかして意欲に変えていかなければ。 働き始めて二日目の今日。仕事が無くて、宴会場で美月ちゃんと折り紙をしていた時。一人目の客がやってきた。 「ごめんくださーい!昼飯食べに来ましたー!」 銀二さんは洗濯物を干しに行っていたので、美月ちゃんと一緒に玄関へ向かう。……食事処ってこんなんだっけ、なんか民家みたいだ。ごめんくださいとか言われると。
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