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(な、なんだこの女の子……!?)
こんな時間にこんな子供が、なんでこんな山奥に居るんだ。どう考えてもおかしいだろ。
ここは年長者としてしっかりと身元を確認し、保護者の元まで送り届ける義務があるんじゃないか。いやいやでも、さっき、うちの前でって言ってたし……?
「……お兄さん、なんで無視するの?ねーえー!」
「おわああ!?ごめん、ごめん!!」
俺の服の裾を引っ張って、女の子が言う。
「で?うちのお店に用?もしかして、お客さん?」
首をかしげられ、咄嗟にこくこくと頷く。
間違ってない、俺は確かにお客さんだ。お客さんとして、この料亭の門を潜ろうとしたのだから。
「そっかあ!じゃあ、私が案内するね。早く、早く!」
ぱあっと表情を明るくして、女の子は俺の手を引いた。俺の足が晩年亭の敷地に一歩踏み込む。
その瞬間。ぞくりと、背筋になにかが走った。
(……?)
違和感を感じながらも、振り返ることなく女の子に手を引かれるまま玄関を潜った。
暖かな空気とだしのほのかな香りに、ここはもしかしてまともな料亭なんじゃないかと思えてくる。いや、おかしな料亭だとは思ってない。ただ名前と、石階段の先にこんな場所があるなんて聞いてない、っていうのが、少し気になるだけで。
靴を脱ぎ、室内用の草履に履き替える。中はとても料亭だとは思えないほど広々としていた。外からはこんなに大きな建物だなんて分からなかったが、ここにきて予算のことが心配になる。もしかしたら、諭吉一枚じゃ足りないんじゃないのか、と。こんなに立派な料亭なら、尚更だ。
「食堂はいくつかあるんだけどね、もうここしか使ってないの。厨房が近いから」
玄関から上がってすぐ左に曲がり、突き当たりを指差して女の子が言う。食堂がいくつかある、という発言が少し引っ掛かるが入ってしまったものは仕方ない。もう腹をくくるしか無いのだ。
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