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(ともだち……)
ここ何年かの俺には、誰一人として存在しなかったもの。
それがまさか、こんな所でできてしまうなんて。
「……あーあ。夜彦、お前厄介な事になったなあ。絶対疲れるぜ、あいつのお守りなんか」
「お守りって……」
「あー、嘘嘘。……まあ、いい友人になれるんじゃないか。お前なら」
銀二さんはふっと笑って、視線を手首の腕時計へと落とす。
(……この人、時計なんてしてたんだ)
あまり印象になくて、思わずまじまじと覗き込んでしまう。革製のちょっと高そうな時計だ。
銀二さんは気だるげに伸びをする。
「さて、そろそろ夕飯の時間だな。ただ、今日は色々食っちまったし、俺はぶっちゃけそんな腹が減ってない。そういう訳で、今晩は軽く雑煮くらいにしておこう。明日の朝にも使い回せるしな」
「雑煮!」
俺がぱあっと顔を輝かせると、銀二さんは苦笑して立ち上がる。そして、何か言いたげに美月ちゃんを一瞥した。
……しかし、銀二さんは唇を引き結んで、何も言わなかった。言うのを、やめたのだ。
そのまま銀二さんは俺達に背を向け、食堂を出ていってしまった。
俺も、少し元気のない美月ちゃんが少し気になって、ちらりと横目に盗み見る。
その時。美月ちゃんが、囁くような小さな声で、ぽつりと呟いた。
「……もう、失せ物すら迎えられないのかと思った」
えっ、と声が漏れそうになって、すんでのところで押し留める。
ふと、美月ちゃんと目が合った。美月ちゃんは少し焦ったような顔をして、しかしそのすぐ後には、やっぱり何かを掻き消すように、にこりと笑った。
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