第二話 赤い落とし物

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* その夜、俺はまた夢を見た。 誰かの記憶をなぞるような、そんな夢。〝あの時〟とよく似た夢だ。 ――くたびれた顔をした初老の男が、唇を噛み締め、かぎ針を見つめている。 男が向かう机の上には、あの赤いマフラーが置かれていた。どこもほつれたところなどない、完成した、あのマフラーだ。 (……ああ、そうか。これは――この夢は) そして、この男の人は。 『……さつき……』 今にも泣き出しそうな声で、男が呟く。 この人が、さつきさんの父親なのだ。 男はボールペンを手にとって、傍らに置かれていた名刺用紙のようなものを手繰り寄せる。 そして力強く、ゆっくりと、文字を書き連ねていった。 白い紙に浮かび上がる文字が、俺の目に飛び込んでくる。 ――穴空きマフラーでは風邪をひくんじゃないかと心配で、こっそり完成させました。 メリークリスマス。 お父さんより―― (……ああ……) さつきさんの涙の理由が、分かった気がした。 彼女の大好きな人の愛情が、きっと、このマフラーと、飾り気のないメッセージカードに籠っている。 それを感じ取れるのはさつきさんだけだ。だから、俺が夢に見たものを伝えなくたって、さつきさんにはこの人の愛情のすべてが伝わっているんだろう。 ――大丈夫だ。きっとさつきさんは、風邪なんか引いたりしない。だって、こんなにも暖かいマフラーがあるのだから。 窓の向こう、明け行く空を眺めながら、俺はゆっくりと目を閉じた。 第二話 赤い落とし物 ―完―
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