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大晦日も近い年の瀬。
人間の順応性とは素晴らしいもので、ここへやって来てまだ一週間程度しか経っていないというのに、俺は既にここでの生活に慣れ始めている。
晩年亭の地図も大体頭に入っているし、たぶん、美月ちゃん達にいちいち聞かなくても、大抵の事はこなせるようになってきた。
まだまだ理解の追い付かないことも多いけど、それでも慣れていかねばならない。ここで過ごさなければならない時間は、まだ長いのだから。
窓の外をじっと眺めながら、そんな事を考える。
真っ赤な紅葉に降り積もる雪。あまり見ない光景だというのに、それが酷く風流に見えてしまうのは、単に俺に侘だの寂だの、そういった心がまったく無いからか。
日暮れに差し込む光が、ゆっくりと影を伸ばす。
雀が一羽、紅い葉に留まる。
「夜彦! 夜彦夜彦~~っ!」
「ぐえっ!?」
俺が一人黄昏ていると、容赦の無い美月ちゃんが俺の脇腹に飛び込んできた。
潰れた蛙のようなうめき声を出しつつ俺が大きくバランスを崩すと、慌てて美月ちゃんが俺の腕を引っ張った。俺はなんとか転ばずに済んだが、お陰で肩が外れるのではという思いをした。
「……で、どうしたの。美月ちゃん」
俺が痛めた肩を押さえながら訊ねると、美月ちゃんは「お客さん!」と元気な声で言った。
……とは言え、廊下にも部屋にも、客の姿は見当たらない。ということは……
俺はとある考えに辿り着く。
(……まさか、幽霊とか、透明人間……?)
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