第一話 晩年の寄り道

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「ちょ、ちょっと待って。君に、聞きたいことがあるんだけど……」 「あっ、そうだ!ご注文はなあに?」 「マイペースだな!?」 いや確かに、女の子が言ってることは間違いない。一応俺は客なんだから、何か一品は注文しないといけない。 話はその後で、ゆっくり聞くとしよう。 俺は座椅子に腰掛け、きょろきょろと辺りを見回す。 「あれ、お品書きは?」 「お品書き?無いよそんなの!」 「えっ!?」 「お兄さんが食べたいものを作るもん。何が食べたい?……あ、その前に、お兄ちゃんも呼ばないとだね。このお店自慢の料理人なんだよ~!」 女の子が完全に自分のペースで「お兄ちゃーん、お客さーん!」なんて厨房の方へ大声を出す中、俺は頭の中で女の子の言ってたことを少しずつまとめていく。 季節外れの庭は自慢の庭。 お品書きが無いのは何でも作るから。 (……い、色々すごい……!) そして、さっぱり、わからない! 足をばたつかせながらお兄ちゃん?だか料理人だかを待つ女の子はひどく楽しそうだが、俺はこれっぽっちも楽しくない。さっきから不安が募るばかりだ。 季節外れの紅葉より何より気になるのが所持金が足りるかどうかなので、自分で自分が嫌になる。
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