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それから数分後。
ギシギシと木の床が軋む小さな音と共に、料理人らしき青年は現れた。
青年、とは言え年は俺より少し上くらいか。
(すっげー、若いのに和服着こなしてる……。いいとこのお坊っちゃん、って感じだなあ……)
そんな俺の視線を感じてか、青年は俺と目を合わせる。
「いらっしゃい。……それから、お疲れ様」
そして、俺が何か言うよりも先に、ふっと微笑んでそう言ったのだ。
「え、あの。お疲れ、って……?」
「言葉の通りだ。ここまでよく来たな。門へ向かう前に、ここで腹を満たしていくといい」
「は、門?あの、全然意味がわからないんですけど……」
困惑気味に言う俺に、青年も眉を潜める。数秒後、何やら合点がいったようで、再び口を開いた。
「……そうか、突然のことで分からなかったんだな。安心しろ、そういう奴はよく居る。……いいか、お前は死んだんだ。事故か、あるいは……」
「えっ!?ま、待ってくださいよ!俺は死んでなんかいませんってば!」
俺が首を勢いよく左右に振って全否定すると、いよいよ青年も異変に気が付いたのか眉間にしわを寄せ黙ってしまう。
「えー?お兄さん死んでないの?生きてるのに、どうしてこんな所に居るの?」
「な、なんで死んでるのが前提……?ていうか、それは俺が聞きたいくらいで。……よくわかんないけど、なんとなく外を歩いてたら、無意識にこの山に入ってきて、気が付いたらこの店の前にいて……」
辿々しくなってしまったが、ここへ来てしまうまでの経緯を分かる範囲で話す。
正直、自分でも良くわかっていない。
意識と体が切り離されているような感じだった。一心不乱に階段を駆け上がる自分を、どこか他人事のような気持ちで眺めていたのだ。
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