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赤の他人のガーデンウェディングをブレザー姿のまま盗み見るくらいには、追い詰められていた。
国道沿いに建つ結婚式場は、高校の通学路にある。白々しいことこの上ない秋晴れだった。
教会の二階から伸びた白い階段を、新郎新婦がゆっくりと降りてくる。祝福の声も芝生の匂いも、亡霊のように現実味がなかった。
式場の装飾的な門扉の向こうに、楽園がある。
愛を勝ち取った者たちと、それを祝福できる者たちだけの世界だ。
どちらの立場にもなれない僕は、楽園の落とした濃い影の中で、亡霊よろしく引き寄せられる。
眩しすぎて、掻き消えそうな己を呪いながら。
「あなた」
ふと、後ろで声がした。
「何してるの?」
振り向くと、白い日傘を差した若い女が立っていた。
ゆるく波打つミルクティー色のロングヘアに、血色の乏しい白い肌。
シフォンと言うのだろうか、透け感のあるふわふわとしたワンピースは、上から下まで白い。
黒々とした目もとだけが、違和感を感じるほどに際立っていた。
付け睫毛とアイラインに縁どられた大きな双眸は、毒虫を思わせる。
「……別に、見てただけ」
「どうして」
「分かってて声かけたんじゃないの?」
この人は一体いくつだろうか、と考える。
僕よりもちょっとだけ上で、きっと友梨佳さんよりも下。
「答えがわかってるのに訊くのは、あなたに恋してるか馬鹿かのどちらかよ」
「君はどっち?」
「答えがわかってるのに訊くのは、私に恋してるか馬鹿かのどちらかね」
僕は馬鹿なのだろうか。
「単に、僕は分からないから訊いたんだよ」
「気が合うわね。さっきの質問には、同じ言葉をお返しするわ」
どう見ても帰宅途中の男子高校生が、どう見ても直接関係のない結婚式を見つめることの意味は、およそ一つしかないと思っていた。
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