第二話 眠れ

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「どっちにしろ、産むから良いの。ごめん、本当行くとこなくて、来ただけだから。もう隼人の事は良い」 「じゃぁ、私の部屋来る?」 隼人と別れて出て行こうとする私と、押しかけて居座っている元カノ。 「あんた正気?」 「正気、正気。隼人とは、昨日もう別れた。つくづく縁ないなって」 「何でそんなに簡単に別れるの? 私と付き合っている時も、あんたの写真は大事にしてたし、あんたの家族の事、いっつも気にしてた。 あんたのお父さんの事最後まで心配してた。 それが嫌だった」 「それはごめん。でも、馴れ合いと恋愛は別だから、別物。目障りでごめん。私もそろそろ吐き気して来た」 「何、あんたもつわり」 「違うよ。成長しない自分に吐き気って意味。久しぶりに再会して盛り上がっただけ。分ってた。でも、私が弱ってただけ。それでも、良いやって思ったのは、事実だけどさ」 「昔、付き合ってたのは知ってる。 子供を流産したんでしょ?」 「そうだよ。気付かないで過ごしてた。気付いたら、結構経ってて、生きてたら心拍も目で見えてた頃、病院で静止画みたいなエコーを診て、周りで赤ちゃんが泣いている声を聞きながら手術を受けた。ごめんね、こんな時に」 「私のセリフよ」 「別れと再会の理由が同じ死でも、私昨日、あぁやっぱ隼人とは違う人生だ……。 そう思ったから別れたの」 別れの理由は赤ちゃんの死、再会の理由は父親の死。 「でも、私には関係ない」 「行くところないんでしょ。なら、一緒に暮らさない? 今、家族とは住みたくないの。父が死ぬまで、この街を捨てる為に、家出してたから、ずっと」 「嫌よ」 「お願い。 今、一人は嫌なの」 「……すぐ、住む家見つけて出て行くから」 「ありがとう」 でも、そんな事言って、来月臨月だけど、沙良とはまだ一緒に住んでる。 一緒に暮らし始めた翌月、また暴漢に襲われて、大怪我しているのに部屋に閉じ籠る私を怒鳴り付けて病院に連れて行ってくれた。 左手を骨折していた。 痛い事も、辛い事も、悔しい事も、悲しい事も、全部忘れて、夜眠る時ぐらい頭を真っ白にして夢を見よう。
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