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嵐の幕開け
ハァ・・・ウンザリする
田端 廉(25歳)はファーストクラスのシートに長い脚を投げ出してオフモードにした携帯をクルクル回しながら大きなため息を付いた
「日本に帰って来い」親父からの電話で俺の自由は奪われた
ワンマンな親父にいつも監視をされている生活が嫌で留学という名の逃避行をし続けていたのに、その自由な生活も今日で終わる
呼び戻された理由は会社の事業拡大の為
「無理に決まってるだろ」思わず声に出てしまった。突然俺に会社に入れだなんて
いつかは跡を継ぐんだろうとは思っていたけれど、それはまだまだ先だと勝手に決めつけていただけにショックは大きい
「まもなく当機は・・・」
俺は既に機内にはいるのに、まだ腹をくくれていない。無常にも機内アナウンスが日本に到着することを教えてくれた
「ハァ・・・」
頭の上から薄暗い雲に包まれた気がした
もちろん俺を待っているんだろう。空港に到着したら逃げるとでも思われていたんだろうか。黒服の物々しいスーツを着た人の塊が俺を出迎えていた
「お疲れ様でした」
黒服に荷物を預けたら、護送される犯人のように車に乗せられ家まで送り届けられた
久しぶりの家の中に入って「あぁ実家に帰って来た」なんて少しは思うもんだと思っていたけれど少しもなかった
広いリビングのソファーに座って何も言わない親父の顔を見たら日本に帰って来たんだとウンザリした
「帰ったならフラフラしてないでちゃんとしろよ」
『久々に会う息子にかけた言葉が「帰ったならフラフラしないでちゃんとしろよ?」他になかったか?「元気にしてたのか?」とか先に聞くべきだろ。まあ向こうでの俺の事は多分何もかも把握していただろうけど』
何も答えず2階の自分の部屋に上がった
次の日、朝早くに起こされた。時差ボケなんて俺の事を気遣ってくれることはなく
スーツを渡されてとっとと着替えたら迎えの車に乗せられた
『またもや俺はどこかに護送されるんだな』
会社に到着と同時に車のドアが開けられ
「おはようございます」
秘書の山内梨花子(32歳)が社長の後ろに着いて夕方までの予定を読み上げた
『何だ?この女 オヤジの秘書か?秘書にしては全く花のない女だな』
「山内さん、これは長男の廉だ。これから宜しく頼む。早速だけど見ての通りの息子だから明日からまともな格好で出社できるようにしてやってくれないか」
社長はソファーに深く座り直しながら言った。当の本人は挨拶をするわけでもなく少し眼球を動かしただけ
『本当に社長の息子?同じ血が流れているとは思えないほど軽い。いやいやチャラいと言ったほうがいい。本人はヤル気がなさそうですが大丈夫ですか?と聞きたくなるけれど悲しいかなそれも仕事』口角をキュッと上げて
「承知しました」と返事をした
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