染血のエメ ヴィベール

9/9
52人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
シェムは、エルを見送った後、早々に教会を出た。 頼りない月明かりの夜でも、猫の目はよく見える。 自分を使い魔にした魔女はもういない。 随分前に、魔女狩りに捕まった。 今は、心優しい人々の手を渡り歩く日々。 今夜帰るのは、可愛い可愛いセイラの家。 「もう!ミカエル!どこに行ってたの!」 10歳のセイラが、ブロンドの巻毛を揺らして怒る。 名前はたくさんもっている。 その中でも、この名前はなかなか皮肉だ。 セイラに抱き上げられ、シェムは喉を鳴らす。 「待ってて!ミルクを持って来るから!」 ここは居心地がいい。 もう少し可愛い猫でいる予定だったが、残念ながらそれも今夜までだ。 シェムは、セイラがくれたミルクを美味しそうに飲み干す。 ただし、その優しいミルクは、決してシェムの渇きを癒すことはない。 そして、いつものようにセイラに抱かれ、温かいベッドで眠る。 その可憐な少女は、 翌朝目覚めることはなかった。 不自然に紅く濡れた猫の足跡がひとつ。 そして、紅い紅いエメ ヴィベールが1輪。 ただそれだけが、血の気の失せた少女の枕元に残されていた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!