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シェムは、エルを見送った後、早々に教会を出た。
頼りない月明かりの夜でも、猫の目はよく見える。
自分を使い魔にした魔女はもういない。
随分前に、魔女狩りに捕まった。
今は、心優しい人々の手を渡り歩く日々。
今夜帰るのは、可愛い可愛いセイラの家。
「もう!ミカエル!どこに行ってたの!」
10歳のセイラが、ブロンドの巻毛を揺らして怒る。
名前はたくさんもっている。
その中でも、この名前はなかなか皮肉だ。
セイラに抱き上げられ、シェムは喉を鳴らす。
「待ってて!ミルクを持って来るから!」
ここは居心地がいい。
もう少し可愛い猫でいる予定だったが、残念ながらそれも今夜までだ。
シェムは、セイラがくれたミルクを美味しそうに飲み干す。
ただし、その優しいミルクは、決してシェムの渇きを癒すことはない。
そして、いつものようにセイラに抱かれ、温かいベッドで眠る。
その可憐な少女は、
翌朝目覚めることはなかった。
不自然に紅く濡れた猫の足跡がひとつ。
そして、紅い紅いエメ ヴィベールが1輪。
ただそれだけが、血の気の失せた少女の枕元に残されていた。
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