夕日の下で咲く

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 でも、ここは違う。ここは平穏、静寂、そして何よりも自然の美に溢れている。ぼくは静かなところが好きだったし、他との干渉も、なるべく避けたい性分だった。  だからこの子には悪いけど、どこか別のところへ行ってほしい。ここは、ぼくが見つけた唯一無二の安らぎの場なのだから。たとえ悪気はなくても、この静寂を邪魔されるのはごめんだから。  しかし、そんな願いもむなしく。少女は立ち去るどころか、座っている距離を縮めるようにこちらに寄ってきたのだった。  こうなると仕方がない、自分がここを立ち去るか。とも思ったけど、依然として心身はくつろぎを求めている。そして何よりも、ここで自分が立ち退いたら負けだというような、自分でもまったく訳が分からないが、そんな変な意地のようなものが生まれた。  結局この場所に居座ることを決めたぼくの隣で、少女はねえねえ、と声をかけてくる。 「ここ、すごくいいところだね。あなたはいつもここにいてるの?」  まあ、よく来るかな。心の中でそう答えた。 「お家にいるとね、ママが勉強しなさいって言うから、いやで抜け出してきたの」  別に訊いてないのに。  特に返事をすることもなく、横でただただその話を聞いていた。  ぼくは少女と目を合わせてはいなかったが、かすかに少女がぼくから目を離して前を向く気配がした。言葉を交わさないぼくに話しかけるのをやめたようだったが、それでもこの場所は離れないようだった。  沈黙だけが流れていた。ちらっと少女に視線を向けると、少女はさっきと同じように自分の足先を遊ばせ、ただそれをじっと見つめていた。  聞こえるのは、そよ風と草木の音、そしてもっとよく耳を澄ませた先にある河のせせらぎ。自然が造り出す神秘的な空間を、しばらく少女とぼくだけが共有していた。
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