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 間の悪いことに、翌日は小鳥遊のモデルになる木曜日だった。放課後、美術準備室で言葉少なにポーズを取っていると、斜め前の椅子に座った小鳥遊が鉛筆を置いた。クロッキーが終わったのだろう。 「ありがとう、悠真。終わったよ」 悠真は立てていた膝を机から落とし、床に降りた。同じポーズを取るのに慣れて来たが、自由になると体のあちこちが軋む。少し腕を伸ばして屈伸運動をしていると、小鳥遊が「冷えたんじゃないのか?」と言って手を包んでさすってくれる。しばらくそうしていたが、ふいに手を頬に持っていかれた。すり……と顎から頬骨のあたりまで悠真の掌をふれさせる。 「……せ、先輩? も、もう大分暖まりましたけど」  ドキリと心臓が音を立てる。ほんの少しだけ伸びた髭がちりっとあたり、小鳥遊は美しいけれどちゃんと男なのだと思った。 「まだ冷たいよ。僕の顔の方がぬくいくらいだ」 「あの、でも……っ」  かっと顔が熱くなる。今まで頬で暖められたことなどなかったので戸惑ってしまう。 小鳥遊の目に、悠真は今までと同じに見えているのだろう。昨日の晩、小鳥遊の夢を見て夢精してしまったと知ったら、どんな顔をするだろう。おそらく「悠真がこんなにいやらしい後輩だと思っていなかった」と言って軽蔑するに違いない。 小鳥遊の薄い色の瞳に、悠真は映らなくなる。きっとモデルもしなくていいと言われて、話すことも出来なくなるだろう。 (それだけは嫌だ。今まで通りに接してほしい) だから、小鳥遊の前では大人しい後輩のままでいた方が、きっといいはずだ。軽蔑されるよりも、今まで通りの方がいい。小鳥遊への気持ちを気付かれないようにしないといけない――。そんな考えがぐるぐると頭の中で渦まく。
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