450人が本棚に入れています
本棚に追加
でも、その心配りに一つだけ気になったことがあった。
彼女が俺を元気づけようとしてくれたこと。
もしかしたら、俺がまだ唯に未練が残っているのではないか。
あえて無理しているのではないか。
そう解釈したのなら、一刻も早く誤解を解きたいと思った。
だから、俺から唯の話に触れた。
「急にあんな場面見せられてびっくりしたでしょ?
ごめんね」
駅をつなぐ交差点の信号が赤に変わり、ふいに立ち止まって彼女に話し掛けた。
彼女は足を止め、ふるふると首を振ってじっと俺を見つめた。
「唯とはもう完全に終わっているんだ。
久しぶりに再会して、改めてそう確信したよ」
今、俺の感情を揺さぶるのは後にも先にも目の前にいる彼女だけなのだ。
彼女の切なげな瞳を見た瞬間、もう上司と部下の関係でいるのは限界だと思った。
殻を破れと、本能がそれを告げていた。
その日、会社から競合コンペ参加決定のサインが出た。
もし、この商談を勝ち取ることができたら彼女に告白しよう。
そう決意した。
最初のコメントを投稿しよう!