ヘルプレス~真っ白な絶望

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「恭介、何故、働かない? 凍傷? なんのことだ? 寒いと美味しいとはどう違うのだ? 効率がいいのか?」  そんな会話さえしたことがある。  共生していた頃は、それは笑い話となった。  今はもうそれも昔のことだ。  奴らは、氷河の世界で足手まといとなる者を捨て見捨てはじめた。  恭介は思い、今さらながらにそのことに身震いした。吐き気がした。 「俺はおまえらと違う…」  思わず声がもれた。  その時だ。    扉のない小屋から見える氷像のように凍った杉の木の向こうから、迷彩服を着た5人ほどの人間が小走りでこちらへ向かってくる。  味方か…?  そんなわけはない、と恭介は自分の甘い期待を打ち消した。  希望を持つなんて、それも捨てたはずじゃないか、と。  凍える雪山に、迷彩服という軽装で軽やかに雪の上を走ってくるなど、人間でないことは明らかだ。ジャングルの中での迷彩服はカモフラージュになるだろう。しかし、熱帯のジャングルでさえ氷と雪に満たされた世界で、その服はなんの役にも立たない。  そもそも、奴らはカメレオンのように「カモフラージュ」する意味などあるのか? 誰の目を欺くのだ? 世界はほぼ奴らのものだというのに。氷河期に突入した途端に弱りはじめた人間を、蔑み殺しはじめ、今はもう世界は奴らのものだというのに。こんな氷点下でも生きていられるモンスターはあいつらだけだというのに…。    これで終わりだ。   凍傷でほとんど焼けただれたようになった顔を歪めた恭介は、雄たけびを上げた。  「!!」  声にならない声をあげ、恭介は歯を噛みしめ、動かぬ脚を引きずり、散弾銃を構えた奴らの群へ恭介は突進していった。 「いたぞ!」    灰色の空へ銃声が響き渡った。  真っ白な恭介の視界は、徐々に黒く染まっていき、真っ白い地面は真っ赤に染まった。  地球最後の人間が死んだ日だった。  人工知能と氷点下の世 界は、地球上の人間を絶滅させることに成功したのだ。
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