4人が本棚に入れています
本棚に追加
「恭介、何故、働かない? 凍傷? なんのことだ? 寒いと美味しいとはどう違うのだ? 効率がいいのか?」
そんな会話さえしたことがある。
共生していた頃は、それは笑い話となった。
今はもうそれも昔のことだ。
奴らは、氷河の世界で足手まといとなる者を捨て見捨てはじめた。
恭介は思い、今さらながらにそのことに身震いした。吐き気がした。
「俺はおまえらと違う…」
思わず声がもれた。
その時だ。
扉のない小屋から見える氷像のように凍った杉の木の向こうから、迷彩服を着た5人ほどの人間が小走りでこちらへ向かってくる。
味方か…?
そんなわけはない、と恭介は自分の甘い期待を打ち消した。
希望を持つなんて、それも捨てたはずじゃないか、と。
凍える雪山に、迷彩服という軽装で軽やかに雪の上を走ってくるなど、人間でないことは明らかだ。ジャングルの中での迷彩服はカモフラージュになるだろう。しかし、熱帯のジャングルでさえ氷と雪に満たされた世界で、その服はなんの役にも立たない。
そもそも、奴らはカメレオンのように「カモフラージュ」する意味などあるのか? 誰の目を欺くのだ? 世界はほぼ奴らのものだというのに。氷河期に突入した途端に弱りはじめた人間を、蔑み殺しはじめ、今はもう世界は奴らのものだというのに。こんな氷点下でも生きていられるモンスターはあいつらだけだというのに…。
これで終わりだ。
凍傷でほとんど焼けただれたようになった顔を歪めた恭介は、雄たけびを上げた。
「!!」
声にならない声をあげ、恭介は歯を噛みしめ、動かぬ脚を引きずり、散弾銃を構えた奴らの群へ恭介は突進していった。
「いたぞ!」
灰色の空へ銃声が響き渡った。
真っ白な恭介の視界は、徐々に黒く染まっていき、真っ白い地面は真っ赤に染まった。
地球最後の人間が死んだ日だった。
人工知能と氷点下の世 界は、地球上の人間を絶滅させることに成功したのだ。
最初のコメントを投稿しよう!