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「春が来たらまた一緒にお花見したいね、夏はスイカ割り、秋はそうだなあ。読書の秋とか?私達はそんなことしないか、そしたらまた冬が来て今みたいに一緒に帰れる、そういえば去年は確かーー、」
「アンタ誰なの」
楽しそうに話していた声がピタリと止み、空気が固まる。
するとゆっくりとこちらを振り返り目の前のお団子頭は今にも泣き出しそうな顔をしながら「やっぱり....覚えてないんだね....」と小さな声で呟いた。
「覚えてないとかじゃなくて、俺はアンタを知らない」
「知ってるよ。キミが覚えていないだけ」
「....馬鹿にしてんの?」
「キミは忘れてしまったんだよ、私に関する記憶を全て」
廊下に響くのは目の前の女の少し高い声と呼吸。
俺は夕日に照らされるその後ろ姿を見ながら、心臓がどくん、と波打つのを実感した。
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