生存本能。あるいは俺の懺悔。

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 加奈子の自慢だった長い髪に、どす黒い血がベタベタとこびりついて、頭部がヌラヌラ光っていた。ヤッてる時に加奈子の長い黒髪に指を絡ませるのが大好きだったけど、今は正直気持ち悪い。それでも、確かめないわけにはいかなかった。  メデューサみたいにウネウネと不気味に広がる髪の一束をつまむように持ち上げると、加奈子の顔がチラと目に入る。 「ううっ……」  加奈子はこれでもかというほどに目を見開いていて、眼球があらぬ方向を凝視していた。  そのまま加奈子の鼻先に指先を差し出す。呼吸をしているかどうかを確かめたかった。  死にたての女の顔に手を近づけるのは恐ろしかった。  今にも、加奈子が動き出して手を掴まれそうな気がして、指先が震えた。  けれど、結局加奈子はうんともすんとも言わず、そこに倒れているだけだった。 「くそっ! やっぱり死んでやがる!!」  俺は壁に背をつけてその場に蹲った。  どうすりゃいい?  俺は……捕まるのか?  ――いやだ!!  この若さで殺人犯になんかなりたくない!  そもそも、これはちょっとした事故なんだ! 殺意なんてなかったんだ。  えーっとあれだ。未必の故意……違うか。そうじゃなくて、あれだよあれ。  過失致死とか、心神耗弱状態で仕方なくってヤツだよ!  加奈子をぶん殴ってた俺は、どうかしてたんだ。 「くそう……なに死んでんだよ……!」  訳も分からず涙が出た。  とにかく、どうにかしなければならない。このままではいずれ死体は腐り始める。そうなったら警察に逮捕されるのも時間の問題だろう。  それだけは何としてでも避けなければ。こんなことで人生を詰むなんて冗談じゃない。 「埋めるか」  ここは都内の住宅地。俺と加奈子が暮らしているこの家は、鉄筋コンクリート造りの3階建てのマンションだ。  幸い、加奈子の部屋は1階の角部屋でベランダから遺体を運び出す事が可能である。 「いや、だめだ……車持ってねぇし。遠くまでは運べねぇよ」  運転免許証のひとつも持ってない自分の無能さに腹が立つ。  その時、散らかりまくった部屋の隅に平積みされてた漫画本が目に止まった。 「これだ……!!」  俺はすぐさま漫画本を手に取った。それは、映画化されるほど人気があるアングラ系の漫画で、暴力シーンがやたら多くて加奈子が嫌がっていた漫画だった。  確か、この漫画には――。 「はは、あった! これだよ、これ!」
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